のんちのポケットに入れたい大切なもの

「みぃつけた!」な音楽、もの、ひと、ことばを綴る日記帳

弟、52歳。

父夫婦が介護付き高齢者住宅に引っ越してから約一ヶ月が経過したタイミングで、弟が金曜日から一泊だけ再度東京から来てくれた。当初のわたしは父に対する怒りに頭が沸騰していたので、「この際、言うべきことは言わせてもらう」つもりでいたのだけれども、結果、至極穏やかなやりとりで終わった。不思議と不完全燃焼でもない。それは、弟のおかげ。

 

金曜日、年に一度実施される、保健所から病院への立入検査の事前提出書類の準備をやっと終えて、夕方車で2時間ちょっと走って父のマンション(父夫婦はすでに施設にいるので、ただいま荷物整理中の「空き家」で、父の用事で出向いた際のわたしの定宿)に車を停め、レンタルサイクルに乗り換えて駅前で弟と合流。

 

弟が東京から来た時の「お決まり」になりつつある、古民家をリノベーションした焼肉屋さんに自転車を押しながら2人で向かう。

 

弟は生ビール、わたしはジンジャーエールで乾杯。

f:id:nonchi1010:20230806061912j:image

 

あんまりたくさんは頼まず、割といいお肉をゆっくり丁寧に焼くのが弟流で、うちの相棒ちゃんが言う、まさに「肉を愛でながら焼く」感じ。わたしは完全に「食べる専門」で、「はい、これ、いける」と網の端っこに弟が置いてくれるお肉をいただくのみ。

 

ゆっくりお肉を焼きながら、ゆっくりわたしに投げてくる弟の言葉に、なんていうのか、ここ数ヶ月に濁ったり、弱ったり、荒んだり、尖ったり、凹んだり、歪んだりしていた自分のこころが、癒されて、浄化されるようだった。

 

弟は、「姉ちゃんが親父に腹立つのはわかる。俺は遠いところにおって、実際の苦労はほとんど姉ちゃんがしてくれて、そんな俺が言うのは申し訳ないかもしれんけど、もうな、なんか、親父も歳とってるやろ?もうな、何が正しいか、あんたがどれだけ俺ら家族を苦しめたか、その根源の◯◯さん(いまの父のつれあい)を世話してる姉ちゃんがどんなに腹立たしいか、その葛藤がどんなに姉ちゃんを疲れさせてるかわかるか?って言いたいのはほんまに山々やけどな、それ、きっともう親父には受け止めるキャパがないと思う。いまのお互いの力関係からして、親父は姉ちゃんには頭が上がらへん。その親父に謝らせたところで、きっと姉ちゃんはまた苦しむねん。謝らせた自分を悔やむと俺は思う。だから、もう、お金の話だけ俺がちゃんとするから、姉ちゃんはあんまりしんどいことは言わんといたらどうかと思うねんけど、どう?」と言った。

 

3つ下の弟が、うんと年上の兄貴みたいに思えて、もう、泣けてもこないほど、自然に、静かに、全て納得がいった。

 

彼はこうも言った。

 

「親父のことがきっかけっていうのはなんか悔しい気もするけどな、姉ちゃんと俺がこの歳になって、こんなふうに定期的に会ってうまい飯一緒に食べて、半分ぐらいは親父のややこしい話でも、あとの半分はいろいろお互いのこと話すやん?俺、それでええと思う。全く子育ての責任とってない、あんなイケてない親父を、きょうだい2人で面倒見てる、それができる俺らでよかったって、親父が死んだ時にそう思えたら、それでええんちゃうか?」

 

本当にそうだよな、と思った。

 

「それでも言わんと気が済まんときがきたら、そん時は言うたらええ。俺はそれは否定せんし、俺がちゃんと親父のフォローはするから」とも言われたけど、翌日のわたしは、本当に、穏やかに父と向き合えた。言いたいこと、というか、言いたかったことはいくらでもあったはずだけど。

 

父と3人で話したあと、弟とお昼を食べに出かけて、わたしが見つけておいたお店でアイスコーヒーを飲んで、少しだけ話して、弟を見送った。

 

f:id:nonchi1010:20230806064320j:image

 

そのあと、父に頼まれた果物とアイスクリームを買って届けた。「飲む点滴」と人気のある甘酒を、頼まれてもないのに買った。

 

父に渡すと「ふぅーーーん」と、あんまりうれしそうではなかったけど、まぁいいや、と心の中で鼻で笑った。そんな追加品を買った自分に、笑った。

 

夜、弟から「帰宅しました」とLINEがあって、「あんたのおかげで、心が軽くなった。ありがとう。それと、お誕生日おめでとう。プレゼントはそのうち送るわな」と返したら、「お疲れさんでした。ありがとうな」と。

 

弟、52歳。

 

きょうだいで、よかった。