頑固一徹おかんは、身長145センチの小柄ながら、その昔、わたしと弟を自転車の前と後ろに乗せて、さらには雨の日には傘をさして運転していた。でも、「こけそうで恐いな」と思った記憶がなく、もちろん転んだ記憶も、ない。
で、さらに、これぞおかんやなぁと思うけど、自衛隊募集のポスターを見つけたら、わざわざ自転車を停めて、ベリベリっっと剥がすことを欠かさなかった。そして、そのときにいつも歌っていた歌があった。
『沖縄を返せ』という歌。
歌詞は、こうだったと記憶している。
固き土を破りて
民族の怒りに燃ゆる島 沖縄よ
我らと我らの祖先が血と汗をもって
守り育てた沖縄よ
我らは叫ぶ 沖縄は 我らの島だ 沖縄は
沖縄を返せ 沖縄を返せ
おかんはこの歌を自転車を漕ぐときのかけ声みたいにしていつも歌っていたので、わたしも一緒に歌っていた。前に乗っている弟は憶えてないと、ずっと前に聞いたことがある。
沖縄の返還を求める闘いのなかで歌われたものだと思うけど、いまは、最後の「沖縄を返せ 沖縄を返せ」のところ、「沖縄を返せ 沖縄に返せ」と歌っている。
沖縄は、アメリカから日本に返すものでなく、沖縄は、沖縄の人びとに返すべきものだと、強く思う。
おっちゃんが沖縄の離島で見つかったとき、おかんもわたしも「沖縄でなかったら、おっちゃんは生きてなかったな」と思った。その後も、沖縄でなければ、おっちゃんは暮らせなかったんじゃないかと、沖縄だったから、生きられたんじゃないかと思っていたし、いまも思っている。
土地を、命を蹂躙された、そのいたみのなかで、人間を慈しむ、生きることを慈しむことを守り続けてきた(なんて、軽く書くことに大いに躊躇するけど)沖縄の人びとに、沖縄のすべての土地を返してほしい。
明日の知事選に、誰を選ぶかは、その一点が唯一にして最大の争点だと思う。