みなさま、こんにちは。
この1週間は、いつも以上に速かったぁ。出張に行き、懐かしい街を歩き、おいしいものをたくさん食べて、その分、仕事に戻ってからは思いっきり働いて、そしてゆうべはギリギリ電車に飛び乗って、映画を観に行ってきました。
『金子文子と朴烈』。
ありきたりな形容詞で恐縮だけど、ほんとに、スゴかったです。なにがスゴかったかということを、整理してきちんと書こうとすると、えらく時間がかかってしまいそうで。もちろん、自分だけの日記帳に書くのではないから、少しぐらいは考えて書かなくちゃいけないとは思うのですが、でも、考え込んでしまうと、いまの感情が、劣化して、あるいは鈍化してしまいそうなので、ちょっと乱暴な書き方になるかもしれないのですが、今日のうちに書こうと思います。
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この作品のイ・ジュンイク監督のことは、『空と風と星の詩人 ~尹東柱の生涯~』で知りました。
祖国の自然や文化や、ひとびとを愛する詩を母国語で編んだことを罪とされ、当時留学していた日本の地で治安維持法によって捕らえられ、獄死した詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯を描いた映画です。
朝鮮人留学生たちを日本の官憲がマークして一網打尽にし、時に激しく、時に陰湿に尋問・拷問していく直接的シーンもありましたが、それ以上に苦しかったのは、尹東柱がほんとうに清々しく、まっすぐで、「あぁ、このひとから、あの詩がうまれたんだな」と納得がいったこと。だからこそ、そのような隣国の青年の命を奪ってしまった、日本という国と、その構成員である自分を、あらためて重く、重く受け止めました。
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その監督が描く、日本人アナーキストの金子文子。
予告編で観た時、正直、最初は気付かなかったのですが、金子文子を演じたチェ・ヒソは、実は前述の尹東柱の映画で、とても重要な役である日本人のクミ役を演じていたんです。熱い想いを内に秘めた、静かなクミ役からは想像もつかない、『金子文子と朴烈』予告編の画面いっぱいに広がる明るい笑顔や、からだじゅうにみなぎる熱気と勢い。「金子文子になったチェ・ヒソ(チェ・ヒソ演じる金子文子、と表現すべきなんだろうけど)」ってどんなかんじなんだろう・・・。
韓国人俳優が、金子文子をどう演じるのか。
韓国人監督が、金子文子をどう撮るのか。
当時の日本のありように憤り、立ち向かった日本人を、そのアイデンティティを、韓国人がちゃんと、大切に扱ってくれるのか、どこかで不安なきもちがもありながら、でも、「金子文子になったチェ・ヒソ」を観てみたい、という思いが強くありました。
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観終わって、思ったこと。
金子文子は、「日本人」という括り(くくり)から、自由なひとでした。誰からも守られることなく、過酷な人生を送ってきた彼女でしたが、しかし彼女は孤独だったのではなく、自らを括るものすべてから解き放たれた、自由なひとであったのだと思いました。朴烈との関係においては、自身が「日本人である」ということにも、「植民地支配する側の民族である」ということにも縛られない、「わたし、金子文子はこう生きる、こう愛する、こう闘う」ということにのみ、突き動かされるひとであったのだと思いました。
そして、その文子を、もちろん私が実際の彼女を知ろうはずもない、その文子を、韓国人のチェ・ヒソが、美しく、堂々と、キュートに、セクシーに、烈しく、哀しく、「きっと文子は、こんな人であったに違いない」と思うほどに演じていたことに、本当に驚いて、感動しました。そして、「朴烈を支えた女性」ではなく、「朴烈とともに闘った同志」として、表現は難しいけど、「闘う朝鮮人に染まった日本人女性」ではなく、「最後の最後まで、『金子文子』として生きたひと」として、監督が位置づけていたことに、泣けました。
韓国人監督が、日本人の金子文子をどう描くのか――。その心配を覚えた自分自身は、やっぱり、まだまだ括られている。そんな気が、とても、しました。
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朴烈のやさしさや強さ、「不逞社」の仲間たちとの絆、当時の内閣のうごき(デジャヴかと思ってしまうほど、誰かのことが頭を何度もよぎりました)、朴烈の裁判で彼の無罪を主張し続けた日本人弁護士のこと…。書きたいことはいっぱいあるけど、とにかく、今日は、文子のことに絞りました。しかも、なんともまとまりがないけど、でも、自分にたいする記録として、今日は残しておこうと思います。
新しい元号が発表されて、賑やかないま、やっぱり、立ち止まって考えたいことがあります。おおきな流れに飲み込まれてしまいそうになるとき、自分の眼で見ること、耳で聴くこと、もちろんそれにかわる手段も含めてキャッチすることを、そして自分で考えることを、大切にしたいと思います。
自分を括るものを解き放つ。
文子みたいにはできなくても、でも、やっぱり、わたしはわたしでいたい、です。
(映画予告編は、youtubeからお借りしました。)